『 あめ の 日 ― (2) ― 』

 

 

 

 

 

 

 

 

    う ・・・  咽喉が いたい ・・・

    息が  できない ・・・

 

    く くるしい ・・・ くるしい・・・

    ここは  戦場 ・・・ ?

 

    ・・・ < 仕事 > しなくちゃ ・・・

    003 ほら おきるのよっ

 

あまりの息苦しさに 目がさめた。

視界に映るのは 戦場 ― では なく。

ついさっき、気持ちよ〜く いや 倒れこむみたいに寝入った自分自身の部屋、

今 いるのは自分のベッドなのだ。

「 ・・・ うそ ・・・ ここ わたしの部屋? 」

起き上がろうとしたが 身体中の関節が悲鳴を上げた。

「 !  い  った〜〜〜い ・・・・ 

彼女は そのまま倒れ込んでしまった。

「 ・・・ う〜〜〜〜    どこか損傷した ・・?

 そんなわけ ないわ。 だって昨日 そんな激しい闘争は なかった・・・ 

 あ  いった〜〜〜〜 腰が 立たない〜 」

腰どころか 股関節もぎしぎし・・・ 鳴っている。

「 わたし ・・・ 壊れちゃった・・・のかしら ・・・

 う〜〜 アタマ いたいィ〜〜〜〜 」

起き上がらなくちゃ 〜 と焦ったが 身体はまるで他人のようだった。

「 アタマの中は ・・・ なんとか無事みたい ・・・ね

 でもこの身体の不具合は ―  根本的なシステム損傷かも ・・・ 」

身体はそのまま フランソワーズはすこし冷静に現状を分析してみた が。

 

    ・・・ う〜〜〜  アタマ いたいィ〜〜〜〜

 

全身をくまなくスキャンしよう、とも思ったのだ。 

 しっかし、直にアタマも がんがん〜〜 痛みが襲ってきた。

「 う〜〜〜 ・・・ いった〜〜 目から火花って これ?

 いたたた・・・ あ〜ん 息をしても  アタマいたい〜〜〜 」

寝返りなんてとんでもない、彼女は仰向けにぶっ倒れたまま呻吟していた。

 

    ・・・だ だめだわ  コア・システム が損傷したのかも・・・

    え〜〜ん 痛覚、シャット・ダウン してほしい・・・

 

     !  ああ なんにも稼働しない〜〜 

 

003の身体は どんなにあれこれ 意志の力で弄りまくっても 

―  全く反応しないのだ。

 

「 ・・・ あ〜〜〜 もしかして。 雨に濡れて どっか接着がはがれて

 浸水でもしたのかしら・・・  きっとそうよ! 

 ふん BGの仕事なんて いい加減なもんね! 」

003は心底 腹をたてていた・・・

( いや そんなことはないと思うよ フランちゃん )

「 う〜〜〜 それにしても んん〜〜〜〜  なんで全然動かないの??

 そうね こういうのを < 使えねぇ〜〜 > って言うのよ、

 ジェットがよく言ってるわよねっ! 」

 

・・・ いっくら怒っても ぶつぶつ言っても < 不具合 > の

度合はどんどん増してきて 息をすることも辛くなってきてしまった。

 

      「  ・・・  たすけて ・・・ 」

 

 ― とうとう 彼女は細い悲鳴を上げた。 それしかできなかったのだ。

 

 

          ばんっ ・・・・ !

 

「 !  フランソワ―ズ ! 」

一瞬のうちに 寝室のドアが開いた。

「 はいるよっ!  どうした?? 」

常夜灯だけの薄暗い部屋の戸口に パジャマ姿のジョーが 仁王立ちになっていた。

「 ・・・ ジョー ・・・  」

「 どこを損傷した? 

「 ・・・ わ からな い ・・・ 全身 いたい ・・・  」

「 わかった。 ほんのちょっと我慢して! 」

ばさ。 彼はタオルケットごと彼女を抱き上げた。

「 博士を呼ぶから。  メンテ・ルームまでがんばれ。 」

「 ・・・・・ 」

加速装置寸前? のスピードで 彼は彼女を運んでいった。

 

    ああ ・・・ ジョーが  きてくれ た  わ 

 

彼の腕の中で 彼女はすう〜〜っと痛みすら引いてゆく気がした。

 

 

 

「 ・・・ ふむ? 」

博士は しばらくじ〜〜〜っと彼女の瞳を観察、脈を計っていた。

 

ジョーにひっぱられ 博士は全くの寝起き状態だったがすぐにきてくれた。

「 博士!  メンテの用意 しますか 」

「 静かにしておくれ ジョー。  ・・・ ふむ ・・・ 」

「 あ すいません   一応機器はすべて立ち上げて 

「 ジョー  ・・・ あ〜〜〜 それよりひとつ、頼まれてくれるかい 」

「 ?  はい!  なんでも! 」

「 あ〜  町のドラッグストアでなあ・・・ 風邪薬 買ってきておくれ。

 そうさなあ・・・ 総合感冒薬 とかいうのでよいと思う。 」

「 ・・・ か  かぜ くすり・・?  ですか 

 だって・・・ 全身痛いって・・・ きっとコア・システムのどこかに 」

「 いや 普通の風邪 じゃな 」

「 は?? 」

「 誰でもよく引く ・・・ 風邪じゃよ 」

「 か ぜ ・・・ 」

「 昨日 濡れて疲れたからなあ〜  まあ あったかくして

 風邪薬飲んで こりゃ気休めだが   ゆっくり眠れば ― 回復するじゃろうよ 」

「 ・・・ は  はあ ・・・ 」

「 さあさ こんな殺風景なトコロよりも 彼女のベッドの方がいい。

 ジョー 整えておいてくれるか  

「 はいっ   あ ・・・ フランソワーズ ・・・ 

 あのう ・・・部屋に入って ベッド触っても いいかな 」

ジョーは おずおず・・・ 彼女に尋ねた。

「 おねがい ・・・ ジョー。  

「 了解! 」

次の瞬間 彼の姿は消えていた。    ― いや階段を猛スピードで

駆け上がっていった。

 

「 ・・・ あ 」

「 ふふ やれやれ・・・ アイツは相変わらずせっかちじゃのう

 どれ 感冒薬が来るまで これでも飲んでおきなさい。 」

博士は 湯気のたつカップを持ってきてくれた。

「 ?  ・・・ サイボーグ用のくすり ですか 」

「 いや ただのカモミール・ティさ。 古典的な 風邪クスリ じゃ。 」

「 〜〜〜〜 ・・・ おいしい ・・・ 

「 これで温まり ゆっくり眠ればすぐに治る 

「 はい  ・・・ ふふ 懐かしい味 ・・・ 」

「 そうじゃの。 ヨーロッパの人間はコドモの頃 よく飲まされたものさ 

「 ええ ええ。 ああ ・・・ いい香り ・・・ 」

さきほどまでの 耐えがたい痛みは ゆっくりと消えてゆく・・・

みたいな気がしていた。

 

 

 

   とん とん ― 

 

「 ・・・ ?  あ ・・・  どうぞ〜 」

深い眠りから ゆうらゆらゆら〜〜 浮き上がってくる最中に

なにかとても控えめな音が聞こえた。

 

   ・・・ あ   ・・・ ノック かあ・・・

 

フランソワーズは ゆっくり目を開きつつ ゆっくり返事をした。

「 ・・・ フラン ? 具合 どう? 」

ジョーが ドアの間から顔を覗かせた。

 「 ジョー  ありがと ・・・ だいぶ いいわ 」

「 よかった〜〜〜 ねえ なにか食べられる? 」

「 ・・・ あ あのう なにか飲みたい 」

「 わかった ホット・ミルクもってくるね! 

「 ・・・ ありがとう ・・・ 」

 

ホット・ミルク と 冷たいプリン が すぐにやって来た。

 

「 ・・・ おいし〜〜〜 」

「 そう? 食欲 戻ったね 」

「 えへ・・・ まだちょっと咽喉 いたいけど 

 あ・・・ プリン おいしい〜〜〜〜 」

「 よかった〜〜〜 」

「 〜〜〜ん  あれ これ 冷蔵庫にあった? 」

「 いや ・・・ さっき風邪薬を買いに行ったときに ついでに ね 」

「 ふうん・・・ ジョー プリン、好きなの? 」

「 普段は 別に・・・ たださ チビの頃 風邪ひいて熱だすと

 神父さまが お薬ですよ ってプリンを食べさせてくれて さ・・・

 そのプリン、食べるとなぜかすぐに治ったんだよね 

「 そうなの ・・・ あ〜 美味しかった♪ ごちそうさま 」

「 あ 全部食べたね  うん これで治るよ。 

 なにかもっとたべる? 」

「 今は いいわ。 」

「 おっけ〜〜 あ ミネラルウオーターのペットボトル、

 持ってきておくね〜  フランは  えびあん だったよね 」

「 わあ ありがとう〜〜  ジョー 」

「 えへ なんでもないってば。  

 あ 昨日さ ぼくの好きなヨーグルト、 ありがと! 」

「 ?  あ〜 ジョーの好きなストロベリー味、でしょ 」

「 そ♪ すごく嬉しい♪ 」

ジョーは にこにこ・・・ 食器類をトレイに集めた。

「 あ そうだ そうだ。  この風邪薬。 

 えっと 一回二錠、 だって。 ちゃんと飲みなさいって 博士が。」

「 はい。 」

彼女は 風邪クスリを受け取った。

 

「 あのさ 昨日 ・・・ どうしたわけ? 

「 ??  どうした・・・って ・・・

 カサを持ってなかっただけ だわ。 巡回バス 止まってたし。 」

「 そうじゃなくて ぼく ず〜〜〜〜っと脳波通信で

 きみを探してたのに ・・・ ず〜〜っとフル・アカウントが

 < お話中 > だった ・・・ 」

「 え??  そんなはず ないわよ〜〜

 わたし ず〜っとひとりで歩いてたんだもの。 

誰とも 通信していないわよ 

「 え ・・・  それにさ GPS,切ってた? 

「 じ〜ぴ〜えす?   ・・・ あ〜 あれ ・・・ オンにするの、

 忘れてた ・・・ 」

「 ・・・ フラン。 きみね〜 」

「 のど いた〜〜い〜〜〜 」

フランソワーズは 錠剤を呑みこむとベッドに潜りこんでしまった。

「 ・・・ もう ・・・  ま とにかく

 今日はのんびりベッドで過ごしなさい て 博士からの伝言です 」

 

≪  りょうかいであります 009!  ≫

 

最大ヴォリュームで 脳波通信が飛んできた。

「 !  うわ ・・・  普通に言っていいのに 

≪ のど いたい ≫

「 はいはい  それじゃ またお昼にくるね〜 」

≪  ぐ〜〜 ぐ〜〜〜 ねました   003より ≫

金髪頭は 枕に沈みこみブランケットが半分以上かかっている。

「 ・・・・ 」

ジョーは びみょう〜な笑いを残し 静かに出ていった。

 

     カチャ。  ぱた ぱた  ・・・ ぱた ・・・

 

スリッパの音が遠ざかっていった。

「 ・・・ 行った わよね 」

 

 もぞ もぞもぞ〜〜

 

しばらくは布団の中でじ〜〜っと耳を澄ませていたが 一分もたたずに

彼女は ベッドから抜け出した。

「 ちょっと寒いかも ・・・ セーター きてよ・・ 」

カーデイガンを羽織ると 窓に寄ってみた。

 

     さ −−−−−−−−  ・・・・

 

外は灰色の雨の帳が 降り続けている。

「 うわあ ・・・ 今日も雨なのね 」

ガラスにオデコをくっつけてみても 庭の緑はぼやけてみえる。

この部屋の窓からは 天気のよい日には水平線がみえるのだが・・・

「 う〜〜ん  海も雨の向う なのねえ 」

灰色の海に灰色の雨が落ちてゆく。

 

    ふうん ・・・ なんか幻想的 ・・・

    ろまんちっく かも ・・・

 

    ・・・ そうよねえ〜 部屋の中からみてれば

    雨ってステキかも

 

「 ふぁ〜〜〜  なんかぼ〜〜っとしてるわ、 わたし・・・

 うん・・・ 関節は もう大丈夫かな〜〜〜 」

彼女は ひょい、と耳の横まで脚を上げてみた。

「 ・・・ うん 痛くないわ。  こっちも ・・・ おっけ〜〜

 腰はあ ・・・ 」

反転したり 海老反りをしたり ― ついには逆立ちもしてみたが

「 ・・・ん  大丈夫☆  あ〜〜 でもなんかダルいなあ  」

 

   ふぁ〜〜〜   大きな欠伸を立て続け。

 

「 ・・・ずっと雨 なのかしら ・・・ 」

ちらり、ともう一度 窓の外をながめてみた。

「 ・・・ ?  ジョーってばなんかヘンなこと言ってたわね〜〜〜

 脳波通信 ・・・別にシャット・ダウンなんかしてなかったわよぉ

 繋がらない って・・・ ジョー、 チャンネルの周波数、

 間違えてたんじゃなあい? 

 

      さ −−−−−−−−−−

 

雨は 静かに 静かに 落ちてきている。

 

「 いろんな人に ・・・ 会った わ ・・・ 夢じゃない。

 ううん ・・・ 皆が会いにきてくれたんだ ・・・ そうよね 」

母も 恋人も 兄も 皆 彼女に笑いかけてくれた。

「 ・・・ ありがと ・・・ ママン ミシェル  お兄ちゃん・・ 」

じんわり 温かい涙が滲み ハナの奥がつ〜〜んとしてきた。

 

   おか〜さん おかあさん〜〜〜  ふと あの賑やかな声が蘇る。

 

「 あ ・・・ あれは・・・ 」

 

    あのこたち。  うふふ ・・・ まってるわね

 

なぜか ほんわりした気持ちが湧き上がる。

理屈なんかじゃない、自分自身の中から愛しさが吹き上がってきた。

 

「 わたし。  あのコ達の < おかあさん > になる。

 ふふふ ・・・ いつかしら ・・・ 待ってるからね 」

 

    ふぁ〜〜〜〜   もうひとつ、特大の欠伸。

 

「 ・・・ 寝よ。  まだちょっとぼ〜〜っとしてるわ、わたし ・・・ 」

 

        バサ ・・・ ことん。

 

カーデイガンをひっかけたまま フランソワーズはベッドに潜り込んだ。

 

 

 

  ガチャ ガチャ ・・・ ごん。

 

「 ・・・いっけね。 こら ジャガイモ 待てぇ〜〜 」

ジョーはキッチンの床で ジャガイモと追いかけっこをしていた。

「 う〜〜  この袋、底が抜けてるじゃね〜か〜〜 」

 

  ごろごろ ごろ。  やっと拾い集めた。

 

「 ふう ・・・ これで全部か?  う〜〜〜

 今夜は くり〜む・しちゅう なんだから!

 ジャガイモは必須さ。  あと ニンジンだろ〜 タマネギに ・・・

 あ ニンニク ・・・ あるよな。

 あとは チキン。  えっと・・・? 」

彼は 『 くりーむ・シチュウ 』 の箱の裏を 熱心に読んでいる。

「 ふん ふん ・・・  あ〜〜〜  筑前煮 とたいしてかわんないよな〜

 出汁の代わりに 牛乳と〜 この < シチュウのもと > を

 いれれば ・・・ 」

 

ジョーの周りには 野菜類がひしめきあっている。

 

「 ジョー ?  ちょいとでかけてくるぞ 」

ギルモア博士がキッチンに顔を覗かせた。

「 あ はい ・・・ お帰りは?  」

「 なに、 昼過ぎには戻るよ。 ああ 昼は外ですませるから 」

「 そうですか。  あ ・・・ フラン、 次の薬は昼ごはんの後 

 ですよね 」

「 あ? う 〜 ん ・・・ 元気になっていたら飲まんでもいいな 

「 え でも ・・・ 

「 今 ちょいと見てきたが よく寝ておった。

 呼吸も脈拍も正常じゃ。  ゆっくり休むのが一番のクスリさ 」

「 わかりました。  あのう・・・ 昼ごはんってお粥とかがいいんですか? 」

「 かゆ?  いやあ もう普通のもので大丈夫じゃろ 

 ホット・ミルクでもつけてやっておくれ 

「 はい!  あ 博士も気をつけてくださいね〜〜 雨ですから 」

「 おう。 でっかい傘と特製のコートがあるでの  フランソワーズみたいには

 ぐしょ濡れにはならんよ〜 じゃあ 頼んだよ 

「 はい 行ってらっしゃい 

 

      ホット・ミルクと ・・・ う〜〜ん ・・?

 

博士を見送った後 ジョーはキッチンで唸っていた。

「  ・・・ お粥 とかならレトルトのがあるんだけど・・・

 普通の 昼ごはん・・? ・・・ ラーメン じゃあなあ  」

冷蔵庫を開け 食品置き場を覗き ― 困り果てていた。

「 あ ・・・ のど いたい って言ってたよなあ ・・・

 じゃあ やっぱ柔らかいモノがいいのかも ・・・

 柔らかいモノ って ・・・ あ フランのふわふわオムレツ !

 ・・・でも ぼくにできる か・・?  」

成功する確率は かなり低い。

「 う〜〜〜〜 ・・・ ぼくができる卵料理って ゆで卵 とぉ・・・

 あ! そうだ アレができる〜〜 」

彼は 勇んで冷蔵庫から卵を取りだした。

「 よし!  あとは  ・・・ 」

冷蔵庫の隣の食品置き場に もう一度アタマを突っ込んでみる。

「 ? なんだ この箱・・・   お〜と・み〜る?  

 ・・・ なんか聞いたことあるな〜  

 風邪ひいた時に食べる なんて場面、なんかの本で読んだけど

 ・・・  え どうやって作るのかなあ 

 ひゃあ〜 これイギリス製だあ  グレートが買ってきたのかなあ 

彼は 箱の裏を熱心に読み始めた。

「 ふんふん ・・・ そっか!  よおし 」

 

  コトコト ・・・ トントン ・・・

 

ジョーは 集中して < 作業 > に取り組み始めた。

 

 

 

      サ −−−−−−−   外は まだ 雨。

 

 

 こんこん。  ドアが遠慮がちにノックされた。

 

「 入っていいかな〜〜 」

「 あ 今 開けるわ〜〜 」

フランソワーズは ベッドから飛び出してドアをあけた。

「 あれ ちゃんと寝てなくちゃダメだよぉ〜  」

「 平気よ もう。  あ ・・・ それ持つわ 」

ジョーは かなり大きなトレイをささげ持っていた。

「 わ・・・ 触らないで ・・ このまま・・・ あ そこのテーブルに

 置いてもいいかなあ 」

「 ええ ええ どうぞ  こっちに置いてね 」

フランソワ―ズは あわててベッドサイドのテーブルの上を空けた。

 

   カッチャン。  そう・・っとトレイが置かれた。

 

「 昼ごはんで〜す。 これをちゃんと全部食べてください。 」

「 わあ ・・・ すご〜い・・・ 」

フランソワーズは 目をぱちくり〜している。

「 ・・・ ジョー が作ったの ? 」

「 えへへ・・・ ちょっと頑張ってみました♪ 

 あ 大丈夫だよ ヘンなものは入ってません。 」

「 うふふ  美味しそう〜〜 」

「 さあ 食べて 食べて〜〜 」

「 はい。  あ ・・・ ねえ  ジョーの分は? 」

「 え? 」

「 ジョーのお昼ごはん。 一緒にここで食べましょうよ 

「 え ・・・だってここ・・・きみの部屋だし ・・・ 」

「 いいわよぉ〜〜 一人きりのご飯 なんて美味しくないわ。

 一緒に食べたいわ〜〜  」

「 そ そうだね!  じゃあ ・・・ 持ってくるね。

 あ ついでにミルク、 もっと熱くしなおしてくる! 」

ジョーは トレイにミルク・カップを乗せ ばたばた・・・・出ていった。

 

    うふふ ・・・ なんか 可愛いなあ〜 ジョーって

 

フランソワーズは パジャマにカーデイガンを羽織り

なんだかほんわか・・・ いい気分になっていた。

 

「 じゃ〜〜ん。  はいっ 熱々ミルク〜〜〜 」

 カチャ。  ほどなくしてジョーは満載のトレイをもって戻ってきた。

「 まあ ありがと。  わあ 〜〜〜 美味しそう〜 」

湯気のあがる熱々ミルク・カップは 指先にも心地よかった。

「 あ 食欲でてきた? 」

「 ええ。 このスクランブル・エッグ ・・・ すご〜く滑らかね〜

 ・・・ おいしい! 」

「 えへ ちょこっとミルクを入れてみました♪  ・・・ おいしい?

 ホントに? 」

「 ええ すごく。 こっちのはポテト・サラダね?  〜〜 美味しい!

 この味・・・ ぴりっと締まってるのは なあに? 」

「 あは ・・・ あのね これ 普通のパック入り・サラダ なんだけどさ

 練りワサビ をちょこっと。」

「 わさび??  へえ〜〜〜 すごくいいわあ〜〜 

 あは お腹空いてきちゃった。  ジョーのお昼ご飯 最高よ 」

「 えへへ ・・・ そう? よかったあ〜〜〜 

 あ あのう ・・・ おーと・みーる って作ってみたんだけど 

「 ああ これね?  ちっちゃい頃、風邪ひくとママンが作ってくれたわ

 ジョー よく作れたわねえ 」

「 あは ・・・ 食糧戸棚にさ おーと・みーる の素 ってのがあってさ。

 箱の裏に書いてあるとおりに作ってみました。 」

「 ふうん ・・・あ〜 なんか懐かしい味〜〜 」

「 そう?  ・・・ ふうん ・・・ ぼく、初めて食べるよ 」

「 これね  ホット・ミルクをかけるともっと美味しいのよ 〜

 ほら ・・・ あ 〜〜  のどに沁みるぅ〜〜〜 」

「 あ ・・・ 痛い? のど・・・ 」

「 ううん ううん いい気持ち〜〜ってこと。 」

「 そっか よかった〜 」

「 ねえ ジョーも食べてみて? オート・ミールって案外美味しいのよ 」

「 うん ・・・ イタダキマス。 」

二つのトレイを並べて < 二人でごはん > が始まった。

 

 

「 あ〜〜  なんかいっぱい食べちゃったわ 

「 ・・・ あの 不味くなかった・・・? 」

「 美味しかったです♪ ホントよ 」

「 そ そう? 」

「 な〜によ〜〜  ジョーだって一緒に食べたでしょう? 」

「 ウン ・・・  おーと・みーる って なんかお粥さんみたいだね

 醤油とかちこっと垂らしたかった〜 」

「 お醤油??  へえ〜〜  わたし、お砂糖をいれたりレーズンをいれたり

 してもらっていたわよ 」

「 ふうん ・・・ いろんな食べ方があるんだね 」

「 そうねえ  あ ジョーのスクランブル・エッグ いい味♪ 」

「 えへ そう?  嬉しいなあ 」

「 ジョーってば お料理上手じゃない? 」

「 ・・・ 必死でした。  あ 晩ご飯は 」

「 わたし 作るわ 」

「 きみはゆっくり休んでいて。  ぼくがやる。」

「 わたし もう大丈夫。 晩ご飯 作れるわよ 」

「 博士にも言われたんだ、フランソワーズを休ませてやれって。 

「 でも 」

「 ちゃんと計画 立ててるんだ。 」

「 け 計画??  ・・・ 晩ご飯の? 」

「 そ。 必要な具材を揃えて 手順もちゃんと確認したんだ。

 あとは 実行するだけ さ 」

「 ふうん ・・・ 」

「 だから〜 きみは ほらちゃんとベッドに入って 」

ジョーは 手際よく食器を片づけた。

「 ・・・ なんか ジョー ・・・ 変わった・・・? 」

「 え?  なに〜 」

「 ・・・ なんでもな〜い。 」

「 じゃ ぼく、後片付けしてくるね 」

「 ・・・ ごめんなさい 」

「 ? なんで謝るの ?  きみは ちゃんと寝てる〜〜 」

「 はあい。  あ あの ・・・ ジョー お願いがあるの 

「 なに? 」

「 あの ね。 後片付け 終わったら ― また 来て 」

「 え? 」

「 一人だと 淋し・・ じゃなくて! 退屈なんだもん。

 なんかおしゃべり してよ 」

「 おしゃべり ・・・?  う〜〜 できるかなあ  

「 ふふふ〜〜 そうやってしゃべってるじゃない?

 なんでもいいから ・・・ あのぅ 一緒にいて ・・・ 」

「 わかった 〜 」

 

  にこ・・・っと笑って。 彼は食器類を片しに出ていった。

 

 

 

       そめそめ・・・小雨が煙る午後

 

フランソワーズのベッド・サイドで 二人はのんびりすごした。

ぽそぽそ ・・・ 好きな食べ物 とか 最近見た動画 とか 

行ってみたい所 とか た〜くさんしゃべりあった。

 

 

「 ・・・ ふぁ〜〜〜 」

「 ?  あらら 」

「 ・・・・ 」

ふ・・・・っと言葉が途切れると 茶髪アタマは前にのめり始めた。

「 ・・・ふふふ 居眠りしちゃってる・・・ 

 ジョー ・・・ ご飯作り、頑張ったものね ・・・ ありがと。 」

 

    ちゅ。    やわらかいキスが 彼のほっぺに降ってきた。

 

「 ・・・ 」

茶色の睫は 頬に落ちたままだ。

「 ふぁ〜〜〜 ・・・ なんか わたしも眠くなってきちゃった 」

 ぱさ。    金髪アタマも すぐ隣の枕に沈みこむ。

 

 「 !?  あ ・・・ いっけね ・・・ 居眠りしちまった・・ 」

ほんの五分くらいで ジョーが目をあけると − 隣には金髪頭が。

「 あ は・・・ フランってば 」  

 

     ねえ  フラン ・・・ 雨の日って さ。

     なんかちょっと不思議 なんだよね〜

 

     きみとこんなにおしゃべり できたし ・・・

     えへ なんか すごく温かい気分〜〜〜

 

     ふぁ〜〜〜  ・・・ 

 

 ことん。 茶色アタマは 再びゆっくり金色アタマの側に落ちていった。 

        

 

「 おか〜さ〜〜ん アタシ ここよ〜〜 」

「 僕! ここ!  おと〜さ〜〜ん 」

 

     あははは    えへへへ     カタカタ カタ ・・・

 

すっかり寝入った二人の周りを 小さな足音がふたつ、駆けまわっていた。

 

 

 

        サ −−−−−−−−−

 

  そめそめと 細かい雨が 落ちてくる ―  皆のこころをうるおして 

 

 

 

********************       Fin.      *******************

Last updated : 04,30,2019.                back      /     index

 

 

*************   ひと言  ************

奇しくも 平成最後の それも 雨の日 の更新となりました。

まだまだ 微甘? な二人 ・・・

チビ達が やってくるのは  ・・・ いつでしょうねえ (^.^)